2014年01月08日

白川淑詩集

<白川淑詩集> 記 中尾彰秀                詩人・ピアニスト・ヒーラー

 世界を至福にする百の詩集(51)

 「女紋の井戸」 白川淑詩集 1992年 地球社 定価2000円 A5版 128頁 30篇

        憧れの様ないとおしさを京ことばに凝縮して、
        男と女の愛情の機微を描く。歴史のはかなさや
        人間の温もり、思いやり一杯にかけがえのない
        日々。理屈でどうのこうのは無粋というもの。
        極めて懐の深い抒情詩。世界の真相は、物的
        境界を超えた波動であるが、その波動に同調す
        らすることもあるのが、いかなる形態であろうとも
        良心に基ずいた愛である。

           「お精霊さん」

 <   -----打てばひびく物と知りつつ迎え鐘  嵐雪

 ずらっと高野槇を並べて売っている
 門前から境内へかけての出店
   おまき どうどす。
 六道の辻は うだる暑さ
 それでも どことなく冷んやりとした風がくる
 あおあおした一束を求めてから
 閻魔さんの祀ってある小堂で 水塔婆を買う
 本堂の前では 白い作務衣の僧たちが筆を走らせている
   <貞誉栄寿禅定尼>
 母方の祖母の戒名を書いてもらう

 お線香の煙りにかざした塔婆を
 小さな祠の 鐘撞き堂へ持っていく
 引き綱を ぐっと引き寄せ ぱっと放す
   チーン チーン
   迷わんと 帰ってきとおくれやす
 十万億土の果てにまでひびかせる
 お寺の庭に深井戸があって
 むかし 傍らに高野槇がはえていたという
 その枝を伝い 井戸を潜り
 この世とあの世を往復した 詩人
 小野なかむらの故事に習っているそうな
 そういえば すぐ東に鳥辺山
 むこうには 阿弥陀ヶ峰も見えている

 祖母は お精霊さんのお迎えには念を入れていた
 十三日から始まるお盆のお供えは 七種
 まず おだんごをつくねる
 こ芋の落ち子といんげん豆の炊いたん
 のっぺのおつゆ おなすのおしたしもせんならん
 蓮の葉の上には ささげやほおずきなんかものせる
 けんずいには おはぎ 白むし おそうめん
 十六日 大文字さんの灯る日がくると
 追い出しあらめを炊いてお送りする
   あんじょう いんどおくれやっしょ
 ゆで汗を門口に流すと ほっとする と
 はようから後家さんにならはった
 おばあちゃんがよういうてはったけど

 先月 一人息子のお嫁さんも葬ったが
   おばあちゃん そっちでは仲良うしてや
 赤まえだれのお地蔵さんに水回向をする
 盆前の四日間 朝早うから晩遅うまで
 鐘は ひたすら鳴りつずける
   チーン チーン チーン
 京のひとは ええ役者はん
 台本をだいじにしてはる>  


Posted by nakao at 19:51Comments(0)