2011年01月02日

はつゆめ

<はつゆめ>  記 中尾彰秀      詩人・ピアニスト・ヒーラー

 あなたの人生を至福にする百の詩集(90)

 「福中都生子詩集」 1987~2000・四詩集 ひまわり書房 定価1500円
                           発行2001年 B6版 232頁
              「大田という町」「生きている不思議」「恋文は三二文字」
              「二十世紀に滞在」の四詩集を一冊にしている。

         「 はつゆめ 」

<山坂町のたらたら道を ゆっくりあるいていると 目の前を猫が一匹横切った
 寅さんか? と立ちどまったときは もう垣根の門口の さざんかの花びらを
 すこしこぼして隠れてしまった 南田辺のわが家にむかう ゆるい坂道を歩き
 ながら 急に”初音”の声を空耳にとらえた 女の子は あかんぼうのころから
 泣き声さえもやさしい まるで猫の仔のようにミャオミャオと泣く 私の耳が老い
 たのかしら 山坂町のたらたら道を とろとろあるいていると 首のうしろで
 ストーンと 大きな夕陽が落ちた 

 ”生まれてきてよかった と言うてやりたい この町に住んでよかった と この
 町で いい男にめぐりあった と 結婚したことも みんなみんな良かったと 言う
 てやりたいのに口ごもる”

 七十年生きぬいてきた足の裏でたちどまると 急に胸が苦しくなった しゃがみ
 こむ目の前で 垣根のさざんかがざわめき 花びらがあたまの上から降ってきた
 ミャオ と仔猫のような 初孫のようなあまいなつかしい声がして 二千年前の
 風の手が 何万本もの風の指紋が わたしの全身を抱き込んだ>
                    詩集「二十世紀に滞在」より

        陽性の生命観。リアリズムに重きが置かれているものの
       部分的なシュールレアリズムが楽しい。この味はなかなか
       のものである。社会批評にせよ、決して陰湿にならぬ心意気
       はさすが。愛と平和を訴える強き確信あればこそだ。






Posted by nakao at 18:14│Comments(0)芸術
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