2011年01月03日

未明の寒い町で

<未明の寒い町で>  記 中尾彰秀          詩人・ピアニスト・ヒーラー

 あなたの人生を至福にする百の詩集(91)

 「未明の寒い町で」 水野ひかる詩集 土曜美術社 B5版 171頁 51篇
                        2500円+税 2010年出版

  内面の彷徨いは心の闇を往き来し、螺旋を描きつつ、自らの在りかを手探り
 する。表現力のあるだけ却って、迷い悩みを持つ人間のカルマ。哀切なる漂い
 は漂いを誘う。
  この詩集に不思議な事が起こった。一Fの書棚で行方不明になったのだ。警
 察に失踪届けを出す前に、二か月で見つかったが。やはり、漂いは漂いを誘う。
 そして、忘れてはならない、答えは自ら探すことによって得られることを。

           「 還暦の桜 」

<車窓に見える満開の桜 巡る思いが 時間と空間を移動する (この子は生きら
 れない) 太平洋戦争末期 栄養失調の母から生まれた赤ん坊は お産婆さんに
 宣告される 水のように薄い母乳 空襲警報の中 懸命に手を尽した牛乳が 生
 命を繋いだ

 車窓に見える満開の桜 母に連れられ 親類の家へゆく途中 (この子は二十歳
 まで生きられない) 目の前の座席の見知らぬ人が 病弱な少女の左頬の黒子を
 指さして言う 占いなど信じない母 小児科に通っていた少女は いつのまにか 
 自分捜しをする詩人になった

 車窓に見える満開の桜 生家に向かう列車に乗る 二人の子供を連れて (六十歳
 まで生きたら褒めてあげる) 八十歳を越えた母が 若い母に言う きらめく花の中
 で細胞がぷちぷちと分裂する DNAの流れに組み込まれ眩しく光る ふたつの生命

 車窓に見える満開の桜 海を隔てた町に住む友を 駅で待つ (褒めてあげる) 晴れ
 た空と真っ青な海 亡くなった母の言葉が 全身にふりそそぐ 四月の光の中を歩い
 て来る還暦の桜 生まれた干支に回帰するよう 水が循環するよう 時空を超える 
 曼陀羅の遍路みちを辿りながら>
  



Posted by nakao at 17:12│Comments(0)芸術
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