2012年01月01日

下前幸一詩誌

<下前幸一詩誌> 記 中尾彰秀           詩人・ピアニスト・ヒーラー

 「詩のちらし」 2012年1月1日
 出版 下前幸一

      「降りしきる八月の」

<降りしきる八月の  蝉しぐれの忌 散乱する幾何

 視界の水面下に 微かに兆す頭痛と 揺れている思考

 炎天の時 生き延びた樹木の 停立する静寂

 接触もないまま 傍らを今が通り抜けていく はかり知れない今

 私はここにいる 遠いところ 届かない現在

 あなたとではなく あなたのただ 記憶である場所に

 石棺の チェルノブイリ

 不可触のエリアに 噴出する フクシマ

 沖積世のプレートの 一万年の軋みと タカをくくった繁栄と

 閉ざされた領域の 薄い未来 損益の計算

 現実と馴れ合っていく 原子力ムラの 寄り合いの想定

 二十ミリシーベルトの糊塗

 やがて放射能セシウムの 微小な薄闇に かき消える一切の

 膨大な喪失の 何一つとして 私は分からない

 長い 長い引き潮に引きずられ 泥の海に沈んだ いたいけな沈黙

 あれは何? うずたかいガレキの はるか奥から届くもの

 汚染された風に 真実まで吹きさらされて 立ちつくす標識

 あれは何?

 何を求めることもない 失われた毎日の どこかで今も疼くもの

 あれは何?

 あの永遠のカウントは 行方不明者たちの モノクロームのあの葬列は

 乱立するスローガンの足元で 首くくる百姓の 殴り書きのあの遺言は

 あれは何?

 液状化した暮らしの 深いめまいに 訪れるウツ

 ミクロの原発が 私のどこかで炸裂する

 蒸発する水面に 言葉のひとしずくが落ちて 見えない波紋が広がっていく

 形を結ばない問いかけの わずかな傾き 水際に浮かんだ伝言

 降りしきる八月の あれは>

      非在のごとき存在も我々は同居する。
      魂を込めて非在と付き合い
      限りなき勇気をもってすれば
      いつしか魂の川となる。
      非在と言うこと自体、
      宇宙に含まれてあるのだから。



Posted by nakao at 18:22│Comments(0)芸術
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