2010年11月03日

穴のある風景

<穴のある風景>  記 中尾彰秀     詩人・ピアニスト・ヒーラー

 あなたの人生を至福にする百の詩集(78)

 「穴のある風景」 北村真詩集 ジャンクション・ハーベスト 定価1800円
                    出版2005年 A5版 80頁 19篇

 この世の存在は、
 およそ理知によっては把握出来ぬ闇がある。
 理知の次元に頼っていると
 一見賢そうだが深みでは
 自意識の泥沼や
 存在全体を波動コントロール出来ぬ状態に
 ハマってしまう。

 一般的に闇は
 怖さを伴って
 我々人間の一部として
 君臨する。
 その君臨の仕方は
 無意識の全貌を捕えられぬが故
 少し小粋に
 穴となったり・・・。
 逃げるのではない
 奥域の何かを
 粋に捉えて
 生きる事の糧にするのである。
 そしてそこには
 生きる事の味が濃く。

      「 眼鏡 」

<<夜につまずいて 眼鏡をはずす ついでにレンズもはずす
 レンズのふちが濡れている フレームも濡れている
 これは 僕がこぼしたものなのか 通り過ぎた街から こぼれ
 おちたものなのか それとも レンズが流したものなのか

 残り雪を踏みしだいたような涙をふき取って みがいたレンズを
 乾いたフレームにはめ込む

 それから  <魚は夢を見るか> という本のうえに 眼鏡を置く

 僕のとなりに ほんの少し軽くなった夜を 横たえる>>

        「 穴のある風景 」

<森さんの家はなく 森さんの住んでいた場所がある 石畳 木の表札
 手入れの行き届いた松 廊下の奥の暗がり 障子の明かり 苔のにおい
 が ない

 先週 娘の住む大阪に引っ越した 森さんの座椅子がない 

 笑い いさかい 沈黙 いつくしみ 消し忘れたテレビ 咳

 ここに 運び込まれたもの ここで 失くしたもの ここで 生まれたもの
 いっさいが ここから 持ち出されている

 けれど 残していったのか 忘れていったのか

 更地のつきあたり 小高い丘の斜面に 家族だけが入れるくらいの
 穴が まだ 闇を抱いている>
  


Posted by nakao at 15:58Comments(0)芸術