2013年01月04日

ひとつぶのパール

<ひとつぶのパール> 詩評 中尾彰秀                詩人・ピアニスト・ヒーラー

 みんなの人生を至福にする百の詩集(92)

 「ひとつぶのパール」  福岡公子詩集 竹林館 2012年 B6版 112頁 35篇 1800円+税

        「プロローグ」

<タイヘンなことが つもり つもって 今は とても タイヘンだ

 だからこそ がんばるのがむりな人も うつむくかわりに 前をにらみつけてみよう
 
 はじめは なにもみえなくても そのうちに 何かが 見えてくるかもしれない
 ずっとそのうちには 歌が 口をついてでてくるかもしれない

 みんなが 前をにらみつけたら タイヘンが 「タイヘンだ!」 と

 退散していくかもしれない>

       森羅万象への慈しみは、大自然への神秘の次元での
       生かされていることへの感謝である。心を魂を存在の
       源に投入すること。それのないただの朗読は、聞くに
       値しない。例えいくらうまくとも。いやむしろ、下手な方が
       良いくらい。要は、入魂。なお、入魂の一詩である。
       もちろん、独りで、自らの内なる無限を・・・・・。

       「残照」

<町内の郵便局の一隅に 十年来一人のホームレスの老人が 朝方から
 夕暮れまで通ってくる

 特別凍てつく日以外 毎日無言で座り続ける この十年その風貌にあまり
 変化はなく 痩せもしないので リュックの中に通帳が入っている という噂
 も流れたが リュックにも老人にも何事もなく 市の職員もあきらめ顔で帰っ
 ていくだけ 大丈夫ですか と声をかけても 返事も返ってこない

 ごくまれに老人の周りが華やぐのは 食パンを食べながら雀たちを包み込み
 西方のかなたに沈んでいこうとする瞬間 老人の目と口元がかすかに微笑ん
 だのだ>

      こういう優雅な郵便局はもうないのではないだろうか。
      お金お金が横行する金融機関。お金は人々の為にな
      って動くという、企業の側の発想もあるが、そういう次
      元を超えて夕日に感動するご老人は、一般のお金お金
      の方々より遥かにまともな人間である。以前は、哲学者
      の顔をしたホームレスを良く見掛けたが、長生きしていた
      だきたいものである。  


Posted by nakao at 17:38Comments(0)芸術