2012年12月13日

大西久代新詩集

<大西久代新詩集> 記 中尾彰秀                   詩人・ピアニスト・ヒーラー

 みんなの人生を至福にする百の詩集(90)

 「海をひらく」 大西久代詩集  思潮社 2012年 2200円+税 A5版 98頁 30篇

       緻密な状態描写にある哀切。存在を止揚するために
       海-------生命の源を開く。
       幻想ならぬ源想の骨格は、懐かしきかつての呪術。
       そもそも我々の暮らしは、一つ一つが何の装飾をせ
       ずとも奇跡の積み重ねである。詩語も音楽技法も忍
       術もなしで奥深き無限なる奇跡である。
       しかし、言葉の直接的な雑文的な意味を伝えるには
       呪術は極めて有効である。シンプルにしようがしまい
       が何れにせよ、共通するのは、聖なる生命である。

              「水のあした」

<傷痕  一面の土筆を手折ろうとすると 指の先から煙と見まがう うすいうすいものが起ち
 土筆が秘めるほの暗さに戸惑った 秘めているものは あふれだす 捨て去ろうとした想い
 掌に残る煙の傷痕を見つめるたび 心の襞を渡るものが 下唇をしびれさす

 時のかけら  醇呼とした水に晒され 見え隠れするザゼンソウ 雪の残る湿地に 記憶の
 ように震える仏焔苞 乱れた靴跡をかき消した突然の霧雨 濡れた手がさ迷った山道のいき
 どまり 窮鳥の声なき叫びが堕ちていく 深山の霊気を浴びて 逸脱した日が溶けはじめる

 波動  真っ赤に燃えるフウの葉は 病んだ闇の底で 撹乱した日を鎮めるだろう 月の牽いた
 水音が葉裏を伝わり 揺れ続けた時をいたわる 関寂の雫が体に満ちて うねりを大きくしては
 跳ねる あした澄んだ空を映す流れに 思念を包んだ葉がそっと乗るだろう>  


Posted by nakao at 17:27Comments(0)芸術