2013年09月06日

大倉元新詩集

<大倉元新詩集> 記 中尾彰秀               詩人・ピアニスト・ヒーラー

 世界を至福にする百の詩集(36)

 「祖谷」 大倉元詩集 澪標 2013年 1800円+税 A5版 153頁 37篇

    この世界を実質上支える数千万年来の精神世界(神域)は、
    ことごとく昔の実際の暮らしと密着している。昔の暮らしは
    大自然(神域)に即し、その内なる魂を保持していたからだ。
    古代に近いその暮らしは、現代でこそもう存在しないかもし
    れないが、幼少時の租谷(徳島県西部山奥)での体験は
    正しく宝。かくして詩人の体験談は、そのまま詩となる。

    そもそも時代おくれの物的科学に基ずいたリアリズムなど
    ではない。敬虔な心で、存在の奥にある領域を直感する
    詩人の魂は美しい。

         「野の花 1 」

<野のお花をつんだ 「痛っ 私にも命はあるのよ」 と叫んだみたい

 「何て名前」 「自分で調べなさい」 「何で調べるの」 「自分で考えなさい」

 お花にいっぱい 教えられた 一日だった>

         「杉の木」

 <「あの木は後二十年位で売れろう」 霧が大急ぎで流れていった山をみながら
  爺やんと父やんが話している 杉の木 戦後まもないぼくが子供の頃

  山では 杉の木や檜の木が大きな収入源 それも何十年に一度という ぼくの
  家は分家らしく山も多く持ってなく その山の中の僅かな木だけが家の財産

  それから十年 ぼくは高校へ進学することになった あと十年位すれば好い値で
  売れたのに とうとう杉の木を売ることになった もう売る物は杉の木だけになっ
  ていた 兄たちも 姉たちも 誰も不平も言わず ぼくに高校を卒業させてくれた
  その頃のぼくらの学校では高校へ行く者は少なく 兄弟ではぼくだけ

  爺やんが植え 父やんが育てた 数十年の苦労の杉の木は ぼくの学費学費
  となった   ・・・・・>
    


Posted by nakao at 18:01Comments(0)芸術