2010年12月17日

手妻

<手妻>  記 中尾彰秀         詩人・ピアニスト・ヒーラー

 あなたの人生を至福にする百の詩集(84)

 「手妻」 下村和子詩集 コールサック社 2009年第2版 
                125頁 A5版 25篇 定価2100円

 藍、藍染めに魅せられ
 そこに人生の様々を感得する
 藍なる自然の色は
 究極、神の色
 
 ならば
 他の色は?
 どんな色であろうとも
 自然の色は
 神の色
 色は波動だから
 色そのものにエネルギーがある
 色があると言う
 不可思議
 特定の物へのこだわり
 音楽や詩へのこだわり
 普遍的神的エネルギーに
 導かれ

 藍の色を出す
 苦労と工夫は
 例えようもなく美しい
 そして、なぜこだわるのか
 謎解きのごとき
 一詩

     「私の色」

<水は 今も 私を 心のふるさとに導く 海の青は 私の色だ

 香炉園浜の水辺に 今はない 広い芝生にかこまれた クラブハウスがあった
 幼かった私の楽しみは 冷たくて甘いジュース 親子四人の明るい日曜日だった
 一人乗りのスカールを漕ぐ 若い父は格好よかった 瑠璃色の沖を 母と私達は
 眺めていた 

 一瞬襲った予感  (消えるかもしれない 幸せの形) 貝殻を拾っている時だった
 今も鮮明に記憶している

 光と影はいつも隣接している 芝生の続きには 古い大きな西洋館があった やが
 てその一室に 母は連れ去られていった あの窓から 母は 青の中の白い一点を
 探していたのだろうか 私が一年生の秋 母は息を引きとった

 深夜の廊下を 父に手をひかれて歩いていった 部屋は暗く一室にはカーテンが
 引かれていた おそろしかった ただ震えていた あそこじゃない 父も母も 青の
 中に居る 私は そう思い込むようになった

 近江の人は 琵琶湖を うみ と呼ぶ 葦が伸びた水郷を 小舟に乗って ゆっくり
 ゆっくり進むと 手漕ぎの舟は 人間サイズの涼風を迎えて 夏も心地よい 葦の
 影は 時の移り毎に 青の色が変わり 魚たちが小さく跳ねる

 銀色に光る うみに出る 舟の動きを止めて お昼のお弁当をいただく
 重ねのお重の中に ぎっしり詰まった 色とりどりの 数を取り合わせた お菜 人も
 葦も 空も魚も 微笑している

 海も うみも青 変りながら 変らない 母の寿命の二倍 生きている私は 舟の揺れ
 に全身を任せて 青に入る 大きなものに抱かれている ある日の午後>
  


Posted by nakao at 18:44Comments(0)芸術