2011年09月15日

和田杳子詩集

<和田杳子詩集> 記 中尾彰秀         詩人・ピアニスト・ヒーラー

 みんなの人生を至福にする百の詩集(27)

 「雨蛙」 和田杳子詩集 行路社 2007年 A5版 119ページ 31篇 二千円+税

     自然と共に生きるという生き方が、詩である詩。
     たかだか物的次元や自意識に捕らわれた悲しみ
     に心を止めるのではなく、大自然と一体の魂の詩。
     自然とともに一喜一憂したええとこの上品な子。
     豊かな抒情の品性のある生命観のゆえんだ。

     表題は動物・生物名が並ぶ。
     「小鰯」「スッポン」「こうもり」「ぶり」「雨蛙」「椿」
     「ほたる」「馬」「鳥」 他。

     なお、田中国男氏による表紙絵は、見事な愁い帯びた
     池である。詩人のジャンルを超えた活躍はうれしいことだ。

               「欅」

<少女のころ私の家には 樹齢三百年の欅が 軒を貫いて聳えていた
 枝が無数に広がり重なり 見上げてやっと見つけた空は 海の底の
 ようだった 

 嵐の日には はげしい波が押し寄せ 太い枝がごうごうとうなり
 家は提灯のように揺れる

 秋の夜はむささびが 皮膜を広げ 欅の実を求めて飛び交い 谷あいの闇を
 一層暗くした

 大雪もしばしば 雪がゆるむと枝から巨大な雪塊が 二階の屋根や軒を轟かせ
 私の小さな身体は畳の上で跳ねた

 それでも欅を信じていて こわくなかった

 根を深く家の隅々まで張った 三抱えもある欅

 私の心は時々 あの欅の大樹になる>
  


Posted by nakao at 18:33Comments(0)芸術