2013年05月03日

武西良和新詩集

<武西良和新詩集> 記 中尾彰秀                詩人・ピアニスト・ヒーラー

 世界を至福にする百の詩集(13)

 「岬」  武西良和詩集  コールサック社 2013年 定価2000円+税 A5版 96頁 27篇

     昔ながらのゆかしき物的抒情が沁み渡り、
     そこに実存空虚が根を張る。
     心を切り離すような言葉でありながら
     真っ向から心を見詰めている。
     今はもうない自らの少年、
     果たして海はそれすらも彼方と一緒に
     内包しているのか。
     圧倒的なエネルギー持つ海よ。

     「海の子ども」

<打ち寄せる 波を何度も見ているうちに 見つけたはずの少年を波のなかに
 見失ってしまった

 波打ち際に近ずくと波は遠く 沖から 少年時代を 打ち寄せてきては磯に
 ぶつける 遠い記憶は 粉々に砕け散っていくが それでも少しずつ拾い集め
 合わせてみれば 過去の記憶の音がする

 波に浸って少年が岩の間から海草を 引っ張り上げ 妹はその手助けをして
 海の声に耳をそばだてる

 つり竿を持った父は 近くで声を聞きながら遠くへ 竿を振る

 何度投げても釣り上げられない 重すぎる過去 粉々になって水辺の砂に
 混じって 選り分けられない

 波は果てることなく 岸辺に打ち寄せては沖に引いていく 秋の日が徐々に
 西の空へ引き込もうとする

 ・・・・・二人の子どもは 遠くで叫ぶ声を聞きながら 岸と海 
 の間を行き来している>
   


Posted by nakao at 17:14Comments(0)芸術