2013年07月12日

田村照視新詩集

<田村照視新詩集> 記 中尾彰秀               詩人・ピアニスト・ヒーラー

 世界を至福にする百の詩集(25)

 「雲の嶺------わたしの第二次大戦」 田村照視詩集 竹林館 2013年 1800円+税
                        A5版 29篇 120頁

       少年時代の思い出は、終戦前後の北朝鮮。
       かなり田舎とのことで、却ってその素朴さが
       胸を打つ。お国が戦争という殺し合いをして
       いても、この地域の人々の心は、しっかりと
       平和を持つ。詩人の父親は小学校校長だけ
       に、そんな良い教育をしていたのだろう。

       いるいるのだ、戦中においても人を殺さぬ兵
       隊。お国のために死んでこいと言わぬ先生。
       府抜け弱虫と罵られても鉄砲を持たぬ軍人。
       命懸けで戦うから慰安婦を利用するのは当然
       とさも解っているように、軽はずみに語る政治
       家は知識だけの存在だろうか。

       魂の源は、常に平和なのだ。戦後68年、平和
       の時代にあっても、魂の平和をしっかりと持たぬ
       現代。テレビ映画マスメディア・・・・感動の安売り
       。やたらな訴えにはシカと注意せねばならぬ。

       「雲の嶺-------敗戦を知る 1945年8月16日-------」

<夏休み半ば その日もブランコ乗りに行った 運動場の西門から 村に抜ける
 細い坂道 ジリジリと陽は照りつけ 紺碧の空には入道雲の嶺が むくむくと連
 なる 

 道の両側には夏草が生い茂り 草いきれの熱気

 村に下る中ほどに 欅の大木が崖に向かって張り出していて 枝には一〇㍍
 ほどのロープが架けられ 子供たちには人気がある 順番を待つ列は三人だ
 から 次に並ぼうとすると 年長のが胸を押すように小突いて 日本人は駄目
 だという 何のことか分らないがと 同級生たちを見廻しても 目をそらせるだけ

 家には小太りで赤ら顔 学校の金先生が来ていて 父と母に 大きな身振り
 手振りで話している 高揚した顔は緊張しているが 今まで見せもしなかった
 誇らしげな態度と 威圧感があった

 ここ交井面は 電気が通じていない ラジオはないし 電話もない 一日一回
 の郵便配達が来るだけ 昨日の正午に玉音放送があったことを 一日遅れて
 知らされた

 「勝って万歳も言えなかったわね」 消え入るような声で母が呟いた 父は腕を
 組んだまま じっと 雲の嶺を見つめている>
 

   


Posted by nakao at 15:41Comments(0)芸術