2013年04月05日

藤井雅人新詩集

<藤井雅人新詩集> 記 中尾彰秀             詩人・ピアニスト・ヒーラー

 世界を至福にする百の詩集(10)

 「ボルヘスのための点景集」  藤井雅人詩集  土曜美術社 2013年 2000円+税
                               A5 89頁 16篇

      知に走る心は
      神秘たる森羅万象を
      外に捉え
      匠に
      言葉表現する
      内なる聖なるものを
      客体化する試みは
      見事に詩の形態を持つ。
      しかし
      どう転んでも
      知であるが故
      光なる感謝と愛の眼の前で
      緊張極まり
      自滅する。
      それに死後気付くことを
      予期しながら。

      「ベートーベンに」

< 第九交響曲の最終楽章でシラーにことばを譲り渡す前に、
 ベートーベンは自分自身のことばを三行だけバリトンに歌わ
 せた。「おお友よ、このような調べではなく、さらに喜ばしく歓
 喜に満ちた調べを歌おうではないか!」彼にとってはこの生
 硬な数行だけで充分だった。世界に遍在する無数の「友」に
 呼びかけるためには。

  その後数知れないことばが地上で発されたが、ほとんどは
 分け、隔て、切り刻むためだった。ベートーベンの数行が果多
 しい細片に砕かれていく前に、世界がくぐってきた惑乱と騒受
 、敵対と破壊は何のためだったのか。しかし、あるいはその黒
 々とした時が必要だったのかも知れない。彼のわずかなことば
 の種子は、地上の至る所で、芽吹くまえに、入り組んだ・・・・・・
 ・・・・・・・・雲の背後で、おぼろげに明滅しているものは何か。
 ・・・・それはひょっとして、夜の、一室をよろめき歩きながら、独り
 歓喜の歌を高唱するベートーベンの影絵かもしれない。>

        


Posted by nakao at 18:32Comments(0)芸術