2012年02月04日

名古きよえ新詩集

<名古きよえ新詩集> 記 中尾彰秀            詩人・ピアニスト・ヒーラー
  
 みんなの人生を至福にする百の詩集(45)

 「消しゴムのような夕日」 名古きよえ詩集 土曜美術社 2012年 A5版 135ページ
                            2000円+税

      犬は深いものを伝えようとしない
      伝える必要がない
      内なる自然持つ獣として
      隠しておけばそれでよい
      何事もやたら伝えようとする人間様は
      何だか浅ましい

      詩は確かに
      多くの人に伝える手段でもあるが
      その前に
      自らの確たる大自然を持ち
      いかなる場所でも
      それを貫くことが詩である
      生きざまである

      戦後、町中に暮らすようになった
      大詩人 名古きよえ は、いかなる暮らしを

         「都会の魚」

<渇きを癒す雨が 白い街をおぼろにつつむ 肌に湿った汗と 魚の鱗
 喫茶店は西洋のカフェのようで いつもにぎわっている

 百席ある二階の 恋人たちが眼を合わすように ガラスコップが光り
 読書する旅人や パソコンから離れない学生の膝元に ちらちら見える
 銀の魚

 中年の女たちがいる一隅から ヒヨドリの縄張りがはじける 耳を刺す
 腰が浮く 「もう時間だよ」と彼がいった 「水分は充分です」とわたしは
 立ちあがった

 高層ビルは雨に濡れ 細長い藻が垂れて 魚がたわむれている わたしの
 胸が少し痛い 彼も痛むのかしら? わたしたちは喪服 知人の葬儀に行く

 乾かないように---- アスファルトがささやく 
 久しぶりの雨ね--- 街路樹がささやく
 めくれ行く街の中で 誰も背中を持たない

 光りと蔭の中に見える銀の魚は だから 言葉でもなく愛でもなく
 鉱物の嘴 ヒトの笑顔を 潤滑油のように舐めている>

   


Posted by nakao at 20:21Comments(0)芸術