2009年08月01日

あなたの人生を至福にする百の詩集(9)

< あなたの人生を至福にする百の詩集(9) >    詩評・中尾彰秀   詩人・ピアニスト

   「 至福の時 」     村上久雄詩集   文芸社、1300円+税

「八ヶ岳縦走に 土曜日の夜大阪を発つ。 盆休みの帰省ラッシュとかちあったのだが 結構早
く着いた。 ピラタスロープウエーに着いたのは三時半。 バスの中で しばらく仮眠を取る。 夜
がしらじらと明け始める頃 少し開いたカーテンの向こうに トトロが見えた。 トトロはいるのだ。
耳を立てておれのほうを見ている。 よく見ると 白み始めたうす闇の中に トトロは沢山いるのだ
それはウサギだった。 トトロはウサギだった。 あの優しさ あの温もり それは人間が失っては
ならないもの。 人間が待ち続けなければならないものだ。 今日からしばらく トトロと暮らす。」
                                        <トトロ>
「ピラタスロープウエイに乗り 七分間の空中散歩を終えると 目の前は一面の銀世界である。
雪がちらつき ガスが出て遠くは見えないが 出発だ。 微かなソリ跡を辿るようにして 五辻への
樹林帯へ入って行く。 全ての木々が 枝にたわわの雪を載せて耐えている。 狭い樹間を摺りぬ
けるようにして おれは滑っていく。 時折詩界の開けるところで おれは立ち止まってまわりを見渡
す。 深い樹林帯の中で何かが見えるわけでもないが 誰もいない静かな世界が おれを迎えてく
れるのがわかる。 なぜなら えも言われぬ嬉しさが おれの全身をゆっくりと満たしていくからだ。 
そして色が変わっていくかのように 自分が優しくなっていくのがわかる。 コメツガよ お前はそこに
立っている。 シラビソよ お前もそこに立っている。 おれも今ここにいる。」  <コメツガよ>

    我々の今住んでいる処は、ひょっとしたら、百年前は山であり、竹の子・松茸の産地
   だったかも知れない。人間は開発を繰り返し、自らの住処を拡げ、科学も進歩させ便利
   にした。人間の文明の力だ。しかし、一方で、かつての自然そのままを懐かしみ、取り
   戻さねばならぬという気持ちもある。地球のバランスを考えれば、程々のところでストッ
   プする必要があるのだ。取りも直さず、地球と言う、宇宙の中の美しい一惑星に、生き、
   生かされているのだから。山の中で、至福を得る詩人の執拗な迄の山登りは、かけが
   えのない地球の大切さを教えてくれている。





Posted by nakao at 17:33│Comments(0)芸術
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