2012年01月08日

田尻文子詩集

<田尻文子詩集> 記 中尾彰秀            詩人・ピアニスト・ヒーラー

 みんなの人生を至福にする百の詩集(43)

 {「あ」から始まって} 田尻文子詩集  土曜美術社 2007年 A5版 115頁 28篇

        静けさや
        存在の奥に
        深きものあり
        あいうえお・・・・・ん
        ひらがなのごとく
        やたらな
        肉食志向と欧米的自意識に走らぬ
        魂の鮮やかさ
        家とは
        身体であり地球であり
        この詩人は知ってか知らずか知らないが
        身体には
        無限の静けさと宇宙がある
        忘れても
        生死超えた無意識の奥に
        永遠に残る

     「家は海に」

<私は忘れていた 私が最初に男子を出産したとき 誰よりも喜んでくれたのは舅だった
 三人の子ども達を風呂に入らせたり 遊び相手になり 散歩に連れて出たり 人一倍か
 わいがってくれた舅 

 私は忘れていた 毎年晩秋の頃には 多い時には二百個もあったろうと思える渋柿を
 手をまっくろにして たった一人で皮をむき つるし柿にしてくれたのは舅だった

 私は忘れていた 村で七年神楽の当人になったときなど 夜を徹して皆の世話をし 寒い
 とも疲れたとも一言も言わなかった舅

 本当に何もかも忘れてしまっていたのは 私達のほうだった

 私はしっかりと憶えておかなければいけない 老いてもう何も思い出せなくなった舅のために
 私は憶えておかなくてはいけない 舅が家のため私達のためにしてくれたこと 舅の生きざま
 私は憶えておかなくてはいけない 歳月は何ひとつ消してはいないということを
 語られなくても見えなくても 忘れ去られてしまったようでも
 家の奥深く確かにしまわれている場所のあることを それらが ふわっと 時折どこかに浮かび
 あがってくることもあることを

 家は海に似ている 入れかわり うまれかわり 荒れる日にも 穏やかな日にも くりかえし
 波立つ雑事の底に何かを沈めてゆく>



Posted by nakao at 18:08│Comments(0)
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