2013年10月10日

大器のスタート

<大器のスタート> 記 中尾彰秀                  詩人・ピアニスト・ヒーラー

     -----中尾彰秀詩音講座(3)-----

 詩人にとって
 第一詩作品は
 極めて印象深いものだ
 年数を重ねれば重ねるほど
 深さを増す何かがある
 にも拘らず
 普段はとうに
 忘れ去っているのだが

 その当時の学生時代私は
 下駄をはき髭を生やし
 前衛を誇りにし
 その癖おなごの
 尻ばかり追いかける
 用心棒のごとき
 立命館大哲学科の
 留年生であったが
 ある日ついに
 ペンネーム陳朴斉に
 終止符を打ち
 正々堂々と
 中尾彰秀となった折の
 衝撃(笑劇)の
 第一作がこれ

    「闇夜の赤ちゃん」

<夜になると赤ちゃんが泣く 乾ききった雑巾を 何度も 何度も
 鼓膜の真上で絞るのだ

 両手で耳穴塞いでも やはり赤ちゃんの声が滴る

 夜遅く 眠た眼で 深深布団を被ってみると 真っ赤なおむつが闇に浮かんで来た

 赤ちゃん 赤ちゃん どうして君はここに来たの

 蒼ざめた額すじ弓にして 前後に揺らめく瞳を闇に刺し 粘着く髪 腐草にする

 君は男でもない 女でもない

 君の泡立つ影から とても貧しい裏道が走り 腐魚が小さな家庭へ送られる
 腸はとろとろ切なく臭い ぎらつく瞳で寝布団に 真っ黒な刺身を搾り置く

 窓辺からふとした星が まばたくと 君の瞳は点々と 染みをにじませる

 ああ このなまぬるく彩やかな 赤いおむつよ

    明日の夜こそ
    優しい言葉で
    話しかけてやろう
    見知らぬ赤ちゃん>     昭和51年作

  中尾彰秀詩集「草子1」  森羅通信の会出版 昭和54年 7篇 定価300円
 
 (購入法) 郵便振替 森羅通信の会 00940-4-29604 定価+送料なし

 *京都の某同人詩誌の仲間達には、生々しく臭いと同時に、おめでとうと言われた。
  前衛を卒業し、晴れて詩人の大器のスタートとなったのである。
 

   


Posted by nakao at 16:36Comments(0)芸術