2011年12月29日

渡し舟

<渡し舟> 記 中尾彰秀             詩人・ピアニスト・ヒーラー

 みんなの人生を至福にする百の詩集(40)

 「渡し舟」 村野由樹詩集  2011年 銀河書房 A5版 143ページ 53篇
                    定価1800円

      内にある大自然・宇宙こそが本当の自らの源。
      単調なリズムで様々のものは、描かれつつ
      静かに呑まれていく。心の奥に。
      この自然回帰は、魂の源へ瑞々しく。
    
      いくつかは、シメの甘い作もあるが、実は、舟に
      乗るのでも船が私でもなく、渡し舟が運行される
      流れそのものこそテーマたる静けさであると語る
      詩たち。

      その認識を明確に持つと、詩は更に輝き楽しさが
      深まる。浅い浅い物的リアリズムの詩評にハメら
      れてはならない。

            「なつかしい日」

<朝ごはんの後に ぐずった長男が 保育所を休んだ日 一緒に歩いて出掛けた
 近くのグランドで 幼い母親だった 私は 午前中 ずっと 広い空の前に 座って
 いた 長男は 草の間を出たり入ったりするバッタを 追いかけて 遊び 時たま
 グランドの横の線路を走る 貨物列車に向って 大きな声で はしゃいで 頭の上
 の方で両手をふっていた あの日 休みが必要だったのは 疲れていた 私の方
 だったかもしれない  今 グランドでは 中高一貫の学校が建つ 工事がすすん
 でいる 草むらが失くなった土地に コンクリートビルの 土台わくが ごばん目模
 様に ・・・・・・・・・・・グランドに ポッカリと あの頃のことが 浮かんで見える>
  


Posted by nakao at 18:45Comments(0)芸術

2011年12月29日

一つの始まり

<一つの始まり> 記 中尾彰秀             詩人・ピアニスト・ヒーラー

 みんなの人生を至福にする百の詩集(39)

 「一つの始まり」 三浦千賀子詩集 竹林館 2011年 B6版 196ページ 96篇

      なぜ、一つの始まりなのか
      
      始まりとは本当のスタート
      生命の価値や奥深さや
      自らの活力に気付いた時が
      スタートなのだ
      そのきっかけを
      より多くの人に与えたいと願う
      本来の教育相談員の仕事
      たまさかにそれは詩であった

      どんな教育を受けたのか
      震災地のとある犬は
      来客ごとに
      石を吐く
      想像を超えた衝撃と
      環境の変化に対応するべく
      遠い先祖の呪術的習慣を
      思い出したのに違いない
      犬に芸術など用はない
      存在の根源を彷彿とさせる
      生きる力は
      藤原達也氏の「犬」の写真を思い出す
      --------すさまじい野犬
      東松照明氏の「やかん」の写真を思い出す
      --------原爆を受けた凄みのヤカン
      さらに私は
      30数年前に行ったインド・チベットを思い出す
      私の魂の故郷は
      インド・チベットだ

           「石を吐く犬」

<仮設住宅の一軒を訪問した時 戸口の前に 黒い犬が繋がれていた

 訪問者を警戒する様子もなく 盛んに尻尾を振っている 同行の男性が
 近ずくと 口からポロッと 石を吐いた 

 仮設住宅の敷地の端に 敷き詰められている 黒い石だった

 家人が言う 一人が来るたびに  石を吐くのです

 犬にもストレスがあるのだろうか 飼い主の家が流され その変化を犬も
 感じているのか 家の中で飼われていたのかもしれない

 まるで人が来るのを待っているように そうでない時は 石を噛みしめて
 さみしさを紛らせているのか 石を吐いた犬は 白い腹を上に向けて
 男性に愛想を振りまいている>
      
        


Posted by nakao at 17:58Comments(0)芸術