2011年11月25日

詩集「繭の家」

<詩集「繭の家」> 記 中尾彰秀          詩人・ピアニスト・ヒーラー

 みんなの人生を至福にする百の詩集(34)

 「繭の家」 北原千代詩集 思潮社 2011年 2400円+税 A5版 22篇 95頁

      生きることの生死混沌とした淡いで
      柔らかく開花する自らは
      未知の内面を徘徊しつつ
      宇宙の中点で揺らぐ

      これほどまでに美しく
      これほどまでに繊細であって
      いいのだろうか!!

      至りに至ろうとする
      しぐさそのものの香ばしさに酔うのは
      まずは読者より作者である
      生命は語られる
      身体の大自然の呪術、魔法、夢 神秘
      滴るがごとく
      気付けば猟師は自殺させられている
      ちょっとおとろちい優しさ
      かつての呪法のきわどさ
      淡い魂、繭のごとく

    「入り口はこちら」

<焼けた煉瓦のうえに オレンジ果汁をしみこませたような
 たっぷりとあたたかい 橙いろの昼さがり 招かれて 朱に
 色ずいたメイプルの坂を わたしはのぼっていった 藤かご
 のなかには 贈りもの わたしの手から生まれたもの つくり
 たての焼き菓子と 庭で乾かしたろうそく はちみつと死者の
 匂いを知っている橙の炎

 招かれて 藤かごをゆらして ナンキンハゼのまるい実がこぼれ
 降りつもった紅葉の 砕かれて鳴る小径を わたしのなかのリズ
 ムが しだいに速くなり 盛りあがる父祖の土塚の 陽だまりの
 たゆたいを越えて だれに招かれているのだろう 焼き菓子の
 甘さと苦さの割れ目に オレンジリキュールはしみていく 

 門衛所で手形を差し出す このとおり 耳赤ウサギを絞めました
 けものの血は濃く 藤かごは生あたたかく湿って 身が沈むほど
 重たい 門衛が夕陽のなかを 泳ぐようなしぐさで赤銅いろの扉
 を開けた>
        


Posted by nakao at 22:39Comments(0)芸術

2011年11月25日

「知井」13号

<詩誌「知井」13号> 記 中尾彰秀           詩人・ピアニスト・ヒーラー

  知井 13号   平成23年
  発行 名古きよえ

 名古きよえなる詩人の
 魂のクリアさを思う。
 京都は鞍馬のさらに奥北
 美山町の知井は
 さらに過疎化が進む
 詩人の故郷なのであるが
 言葉遊びを廃し
 単なる自然回帰運動とは
 一線ひかれた
 大自然を慈しむ心意気がひかる。

   「馬」

<あの馬はときどき私の傍へやって来る
 材木を引いていた無言の労働馬よ
 幼児の私と小学生の姉が
 空の荷台に乗せてもらうと
 いそいそと坂道を登って行った

 あの馬が消えてから久しい
 この世は深く あの世は広いのか
 駆けてきて来て夢にあらわれる栗毛よ
 私の傍で暖かい身体を摺り寄せる
 何もなくても穏やかな あの頃のように>

     この世とあの世は深く広いに
     せよ、ひっついていることには
     間違いなかろう。それが故、夢
     においては自由に行き来してい
     るのだ。思い出は単に、取り残し
     を取るのではなく、奥ではひっつ
     いているのだよと教えてくれてい
     るのだ。
     哀愁は、宝石が輝くがごとき心の
     宝である。存在と言うこの宇宙の
     一つ一つの奇跡を、感謝をこめて
     実感する時、迸るもの。
     馬馬、それを忘れてはならない。


 
   


Posted by nakao at 21:36Comments(0)芸術