2014年05月17日

宮川明子詩集

<宮川明子詩集> 記 中尾彰秀                  詩人・ピアニスト・ヒーラー

 世界を至福にする百の詩集(85)

 「物語N」 宮川明子詩集 1975年 深夜叢書社 定価1500円 72頁 10篇

     銀色の装丁。青色の活字。挿絵はギリシャ神話のような。   
     詩群は面白い提案である。
     情念の酔いにさめざめと酔う。
     あるいは言葉の自家中毒。
     この詩集が40年経て、
     何故当方にあるのか
     知らないし覚えていない
     それ自体が、ミステリアスである。

     曖昧な悲しさに浸る提案は
     年数を経て
     発酵し、癒しなる高次元に至るのを
     いくつもいくつも
     私は知っている。

     詩集とは
     書かれた時点では
     まだ
     感情に止まる
     赤子なのだ。

     「青空」

<記憶のなかの素晴しい青空を求めて 何故ならその青空はうずくように
 解き放たれた思いを映しているからだが 私は一日 旅立つのである
 それにしても空の青よ いまはわずかにおまえだけが 私を心躍らせる
 それは私の不自由の中に 深く広く切り取られて 向こうへ抜ける為の
 穴でもあるかのようである

 なつかしく 心迫るその青は だがあくまでも静かに そそり立てつつも
 限りなく 安堵の思いをもたらして・・・・

 その非情なる沈黙に その無限なる有限に そのあまりに美しい青の
 ゆえに 私はやがて泣くくだろう ・・・・>  


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2014年05月17日

大掛史子詩集

<大掛史子詩集> 記 中尾彰秀              詩人・ピアニスト・ヒーラー

 世界を至福にする百の詩集[84]

 「花菖蒲」 大掛史子詩集 2003年 本多企画 2000円+税 A5版 124頁 20篇

       美しき抒情は哀しみを孕んで増長する。
       言葉はかくも余韻を持つのだ。
       余韻に溺れながら美を鷲掴みに
       音楽奏で静かに踊りながら。
       そして 何よりも悶えながら。

           「序」

<花のくにから ただひともと遣わされた 気高くもみずみずしいもの 内ふかい旅がはじまる
 ふたたび青い花芯の奥へと ことばはひるみ ことばはまどう いかにうたおうか いのちみつる
 青を どれほど深めてかえしたらいい 花のくにへ>

           「春の裸形」

<いま陽光から生み落とされたのだろう ほっそりと浄らかな裸身が 萌えはじめた草の上にある
 護り手のように枝を広げた重い木立と はるかな奥行きをみせるみどりの原野の手前 仰向けに 
 右肱を立て 左腕はゆるやかに虚空をさぐり 固い乳房は陽の戯れにも恥じらいおののく 草に
 流れた金色の巻毛の中の 柔らかなうなじと意志を持つ唇は まっすぐに空に向けられた目ざし
 と共に 天への畏れにみちて疎ましく ・・・・・

 物語はいつ始まるのだろう・・・・・・・・やがて白い幻影の手に引き渡される日を 移ろいやまぬ
 相貌の一瞬の煌めきにも似て 甘美である筈の約束の物語は・・・・・」
    


Posted by nakao at 18:22Comments(0)