2014年05月06日

通過

<通過> 詩 中尾彰秀              詩人・ピアニスト・ヒーラー

 区間急行という電車に乗ると
 一部は各停になっている
 つい先日
 気付いたのだ
 何百回となく通過しているのに
 目にするのは初めての駅に
 ただやたら申し訳なく
 合掌した

 目的を持つと
 つい見落としてしまうものがある
 見落としたからと言って
 責められはしないが
 責められぬことが却って
 墓穴を掘る

 私は私自身をとうに通過して
 地球一回り
 元のここに居る
 以前の勤務先の局長は
 お客さんの似顔絵を描いて
 人気を博していた
 絶対に普通車しか乗らなかった変人
 とうに私も退職したが
 今になって気持が良く解る

  


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2014年05月04日

福田知子詩集

<福田知子詩集> 記 中尾彰秀                詩人・ピアニスト・ヒーラー

 世界を至福にする百の詩集(77)

 「ノスタルギィ」 福田知子詩集  2012年 思潮社 2200円+税 B6版 96頁 23篇

        現代詩界に君臨する闇の情念。
        味のある言葉によって、その種の悦楽を与えてくれる。
        詩言葉悦楽はしかしいまだ、魂の浄化に至らず
        泥沼を彷徨っている。
        その次元を期待する詩人や評論家は
        かなり多く、それを優れた詩だと思い込んだ
        マスメディアも後を絶たない。
        しかし
        人間の魂の奥深さ崇高さは
        まさしくそんなものではない。

        「春の嵐によせて」

<   さみどりの 目覚めの際のみどりよ
     ゆきつ戻りつ みどりを祈みつつ


 こんな嵐の夜はどこにもいかない あなたはどうにもならない感情を携え
 手のひらに誓うみどりの意識 みどりの雨は遠くをながれ 抑揚のない
 面差しは能面の視線のように空を漂う

 追い越され続けるものたちよ 醒めぎわの視線をたどるがいい
 一言主はほの暗い谷のながれに沿って そぉろり 奉唱する

 ことばを揺り戻すように 水脈に立ちのぼる水煙に

 はらはらと

   零れ

       つたいわたる

   水のあるところ     声のあるところ

 どこにもいかない嵐の夜 髪 解きつつ  たった一言に願いをたくし
 この夜にとどまる

 だから 声に墨をながして 仮寝の閨にたどり入る>  


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2014年05月04日

ヒマーラヤの星(2)

<ヒマーラヤの星(2)> 記 中尾彰秀               詩人・ピアニスト・ヒーラー

 世界を至福にする百の詩集(76)

 「ヒマーラヤの星」 奥田博之詩集 詩画工房 2002年 2310円 A5版 171頁 32篇

     まことにこの世の
     物的現実は懐かしい
     この世の人生
     この地球に
     居るのだから
    
     インドに渡り
     ラーマクリシュナ僧院に13年間
     修業を積んだ
     詩人 奥田博之は
     既に死して詩集を残したが
     残された詩集は語る
     現今の人間の
     魂の輝き
     永遠の生命の環
     宇宙一体波動を

     ちなみに
     箱入りの詩誌は
     世に五万とあるが
     枠を突き抜けて創造的な
     癒しに至るものの何と少ないことか

     「春月」

<公園は 光が冬を忘れて 眼差しが柔らかい
  
 家の戸が あちこちで開いて 

 ベンチで 近所の人達が談笑している

 子供が砂遊びし 大人が 時間を忘れている そんな昼下がり

 花見の席を取る人が ちらほら現れる

 人びとは 胸をときめかせ

 宵闇が近ずいてくる 月が 静かに 登ってくる

 家々のうえに 永遠が 往き渡っている>

    月を抒情で解決しない。
    零と無限を発見したインド。
    内なる宇宙の意識が
    月を永遠と。
     

  


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2014年05月03日

一望

<一望>   詩 中尾彰秀               詩人・ピアニスト・ヒーラー

 東へ疾走するバキュームカー
 物をいただいてお金を得る
 不思議の法則

 東西に広がる山脈
 元から神に許されていない
 開発を二ガ笑うもの

 流れる川 西の海へ
 内壁を切なく晒す一つの幻想
 海に至って地球という
 青い幻想になる

 東へ向かう風
 私は見た
 押されるのでも
 引かれるのでもなく
 過去未来を浄化し
 魂を止揚する
 現今の吐息その一点を

 東へ滑る旅客飛行機
 太陽を友に
 空気を切って進むものの哀切
 降りると落ちるの微差を采配するのは
 人ではない 人ではない

 風に乗って回るトンビ
 君の描く環は
 飛鳥の歴史
 その都度塗り替え
 苦悩を歓喜にする

 青い空のポーカーフェイス
 平然と私を眺めるのは自由だが
 眺められ過ぎて私の青い影は
 マントルの響き丁し
 街の北端で
 湯気立っている

 異次元も今ここの遥かに
 ドントもホカロンもなしで
 懐温め
 内なる永遠の気付き
 与えてくれている
 ここにありながらもない
 ないながらもある
 私は森羅万象

 一望とは
 ああ一望とは  


Posted by nakao at 17:35Comments(0)

2014年05月01日

絵図

<絵図> 詩 中尾彰秀              詩人・ピアニスト・ヒーラー

 三つ四つと
 乱雑に積み重ねられた
 日毎の掌大の予定表 
 ここのところ雑用も加わって
 一日に一つずつぐらいは
 やり残しがあるから
 捨てなかった
 やり残しがあっても
 日は前に進むから
 気にならない

 時の流れは
 神の決めたこと
 同じ繰り返しでも
 その新鮮さに
 いつも驚かされ
 ふいに思い出す
 七回生の終わりに訪れた
 チベットの山道の積石

 就寝前の半睡状態
 貴重な駆け込み時間

 何者かに導かれ
 一紙拡げてみれば
 ぺけまるさんかくしゃせん
 ハリーポッターならぬ
 世界の迷路の答絵図
   


Posted by nakao at 16:49Comments(0)

2014年05月01日

北口汀子詩集

<北口汀子詩集> 記 中尾彰秀               詩人・ピアニスト・ヒーラー

 世界を至福にする百の詩集(75)

 「微象」  北口汀子詩集 1991年 竹林館 定価2000円 30篇 102頁

       我々は日々、生きている。神話の世界を。
       逆に言えば、歴史・真実・神話の証拠として
       今の今を造り上げ生きている。それは、存在の
       源に生かし生かされている奇跡。その実感が
       良く生かされた一作がある。内なる光への軌跡
       の描写だ。その他、想念の実験のごとき作も見
       受けられ、詩人としてのプロセスを窺うことができる。
       添えられた多田真理氏の版画はルドンの印象が
       強く感じられる。

            「ノスタルジア」

   <言葉が或る時果実のように熟れてくることがあるそうだ
    そんな話はおぼろな彼方に見え隠れする神話の世界での
    出来事のように思える しかし確かにそんなときが稀に
    訪れるものだ そんなとき 言葉は丸丸と熟し 心の底
    にぼってりとした手応えを残す そしておぼろな彼方に
    揺らいでいた神話の世界が忽ちに顕れてくる ところが 
    その言葉が何だったのかいくら考えてみても 浮かび上
    がってはこない ただ心の底の暗闇に残るかすかな感触
    だけがやけにありありと感じられ その感触を手繰り寄
    せるとぽっかりと白く輝いている
     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・>
         


Posted by nakao at 16:30Comments(0)芸術